アトピー性皮膚炎とは
[更新日]2022/12/17 485 -
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、かゆみをともなう湿疹が改善と悪化を繰り返す皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは「アトピー素因」を持っています。
アトピー素因とは、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、または複数を自分自身や家族がもっていることです。
またIgE抗体というアレルギー反応に関与する抗体を産生しやすい体質であることが知られています。
症状について
かゆみのある湿疹が特徴です。
「赤くなる」、「赤いブツブツ」、「ジクジクで液がでる」、「ボロボロ皮がむける」、といった湿疹があらわれます。
長引くと皮膚が「硬くゴワゴワ」になっていきます。湿疹は体のさまざまな部位に左右対称性に繰り返してみられ、顔、首、頭、ひじ、ひざ、おなかや胸から背中にかけてなどが症状の出やすい部位です。年齢とともに湿疹の出やすい部位が変わっていきます。
年齢的なアトピー性皮膚炎の特徴
アトピー性皮膚炎の皮疹の広がり方には、小児と成人で異なる特徴があります。以下に年齢ごとの特徴を解説します。
乳児期のアトピー性皮膚炎
乳児期のアトピー性皮膚炎は頭や顔に始まり、次第に体や手足におりていく傾向があります。特徴として、顔や頭の皮膚を中心とした赤い湿疹または盛り上がった湿疹があり、耳切れが見られることが多いです。ひっかき傷の痕があることもあります。乳児期は独特の行動でかゆみを訴えるので注意が必要です。
幼少時期のアトピー性皮膚炎
乳児期の皮疹が治癒せずに移行するものと、幼児期に初発するものに区分されます。
・乳児期の皮疹が治癒せずに移行するもの
病変が赤く膨れ上がって拡大、ひっかいたことによるただれとかさぶたが主体、手の届きにくい部位には皮疹が生じにくいなどが特徴です。
・幼児期に初発するもの
乾燥肌で、首、ひじ、ひざ、手首、足首に好発、細菌やウイルスの二次的な変化を生じやすいなどが特徴です。
思春期・成人期のアトピー性皮膚炎
幼少時期のアトピー性皮膚炎が思春期になっても治らずに移行する場合と思春期・成人期に発症する場合があります。
思春期以降は、顔、首、胸、背中など上半身に湿疹が強く出る傾向があります。額や首まわり、手足の関節部分の内側に皮膚が厚くなってごつごつした感じの部分ができるのが特徴です。顔面の発赤や首の皮膚のさざ波様色素沈着、そして体に赤くかゆい湿疹がみられます。
アトピー性皮膚炎の原因
遺伝的要因(アトピー素因、皮膚バリア機能が低い)に、アレルゲン(アレルギーを起こす物質)などの環境による要因や、ストレスなどの精神的な要因などが絡みあって発症すると考えられています。
遺伝的・体質要因
アトピー素因を持っている、皮膚バリア機能が低い、免疫機能の異常をきたしやすいなどがあげられます。また、食物アレルギーや汗が原因となることもあります。
環境要因
代表的な要因として、ダニ、ハウスダスト、細菌・カビ、ペットなどがあげられます。
アトピー性皮膚炎の標準治療
標準的治療の①スキンケア(皮膚の清潔を保ち、うるおいのある状態を保つこと)
②薬物治療(皮膚の炎症を抑える治療)
③環境整備(環境中の悪化因子をみつけ、可能な限り取り除くこと)の三本柱を中心にした治療により、「寛解導入(症状を改善させ湿疹のないすべすべのお肌にすること)」を行います。
ステロイド
ステロイド薬物療法の基本
1.ステロイド外用薬の強度、剤型は重症度に加え、個々の皮疹の部位と性状および年齢に応じて選択
2.ステロイド外用に際して注意すること
- 顔面にはなるべく使用しない
- 副作用は使用期間が長くなるにつれて起こりやすい
- 種類と使用量をモニターする習慣をつける
- 中止あるいは変更は医師の指示に従う
- 急性増悪した場合は必要かつ十分に短期間使用する
- 症状の程度に応じて、適宜ステロイドを含まない外用薬を使用する
- 必要に応じて抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を使用
- 1~2週間をめどに重症度の評価を行い、治療薬の変更を検討する
3.ステロイド外用薬の主な副作用
- 感染が起きやすい
- 皮膚が薄くなり、萎縮しやすい
- 皮膚の血管の壁が弱くなりやすい
- 皮膚の脂の腺が活発になる
保湿剤
皮膚の炎症症状が強い部分にはステロイド外用薬の塗布が必要ですが、症状が軽い部位には保湿剤を使用します。
軽い症状は、保湿剤のみで改善をみることもあります。皮膚炎が落ちついているときでもドライ・スキンがあれば、入浴・シャワーの後は保湿剤を塗布しておくのがおすすめです。
抗アレルギー剤
外用薬に加えて、抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬がその炎症を抑える作用とかゆみを抑える効果を期待して併用されます。
ただし、アトピー性皮膚炎の症状をこれらの薬物のみでコントロールすることは不可能で、補助的薬物療法として使用されます。
使用にあたって、薬剤の作用、副作用について医師から十分説明を受け理解したうえで使用することが大切です。特に、眠気を誘起しやすい製剤を服用中は、自動車の運転、危険な作業などは避けることが必要です。
最新の治療薬について
最新の治療薬(コレクチム軟膏、デュピクセント)がアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに加えられました。ともに推奨度1とエビデンスレベルAという最高評価がついています。それではこの2剤について解説します。
コレクチム軟膏
コレクチム軟膏(成分名:デルゴシチニブ)は、日本で開発されたアトピー性皮膚炎に対して効果を発揮することが期待される、世界初の非ステロイド性・外用ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬です。2020年3月、コレクチム軟膏が2歳以上の小児にも適応となりました。
細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすJAKの働きを阻害し、免疫反応の過剰な活性化を抑制することで、抗炎症作用及び抗そう痒作用によるアトピー性皮膚炎の皮疹に対する改善作用を示してします。また52週間反復塗布した長期の安全性も確認されているため安心して使用できる薬剤です。
また、ステロイドの維持期に置き換えて使えることで、ステロイドの使用を減らせる可能性があります。外用薬のため、全身性の作用がなく、副作用の軽減も期待できるところが利点です。
コレクチム軟膏は使用時の刺激感も起こりにくく、2歳以上の小児から大人まで幅広い世代でアトピー性皮膚炎の治療の新たな選択肢として期待されています。
デュピクセント
デュピクセント(成分名:デュピルマブ)は 生物学的製剤 (抗体医薬)の注射剤です。2019年6月より自己注射が認められるようになりました。
アトピー性皮膚炎の病態には、サイトカインと呼ばれる物質が関与しています。
デュピクセントは、アトピー性皮膚炎の病態の中心となるサイトカインIL-4、IL-13の両方の働きを抑制することで、皮膚の炎症やかゆみを抑え、アトピー性皮膚炎を改善します。
ただし、デュピクセントには治療が受けられる以下の条件があるので注意が必要です。
- 既存治療では効果が十分に得られない方
- 投薬はアトピー性皮膚炎の重症度判定で一定以上のスコアが高い方
- 15歳未満の小児
- 開始月は、2回の通院が可能な方(開始月は2週間に1回の注射が必要)
- 外用治療も併用できる方
条件に合致する方であれば有用な薬剤であるといえます。
デュピクセントは最新のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは以下のように記載されています。
“デュピルマブは複数の臨床試験でプラセボと比較して皮疹や瘙痒などの臨床症状を有意に改善させ、睡眠を含む QOL を向上させることが示されている。 主な副作用は、結膜炎と投与部位反応である.効果が高く、その効果が長期間持続すること、重大な副作用も少なく、安全性も高いことから、寛解導入だけではなく、寛解維持にも適した薬剤である。”(引用:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021 CQ17 )
コレクチム軟膏、デュピクセントともにアトピー性皮膚炎の治療において欠かせない薬剤となってきます。ステロイドをはじめ、今までの薬を含めて何が適しているかを皮膚科医が判断して処方されますので、アトピー性皮膚炎で悩まれている方に心強い薬剤が増えたと考えてよいのではないでしょうか。
執筆者について
プロフィール
フリガナ: ワカヤマ ヒサト
名前: 若山 尚登
保有資格: 薬剤師、日病薬薬学認定薬剤師、YMAA認証マーク資格
職業: 薬剤師
経歴:薬学部卒業後、製薬会社にてMRを経験したのち、病院薬剤師へ転職。現在は病院薬剤師として働きつつ、医療ライターとして医療・薬に関わる記事の執筆に取り組んでいます。
自己紹介: 自身の経験を生かした幅広い視野で、医療の現場を伝えていくことがモットーです。薬剤師としてだけではなく、一医療人として人々の健康に役立ちたいと日々勉強に励んでいます。